大河ドラマ『炎立つ』を観る -第18話-
基本的にドラマの主人公ってやつは、そういうコンセプトで無い限り、悪く描かれることはありません。『炎立つ 第2部』の主人公清衡は、父親・一族もろとも殺され、母親を敵の頭領に奪い取られ、自身も敵の養子にさせられ不遇の幼年期を送った・・・などなど、その生い立ちだけでも十分に視聴者の同情を買っています。加えて主役の村上弘明様の人当たりの良く、誠実でジェントルマンないでたち(若干ファン目線入ってます
)に悪い印象を覚える人はあまりいないでしょう。なのでたとえお家再興の為、義兄や異父弟を殺す事になったとしても、あの兄弟の性格の悪さも鑑みれば『まぁ、しゃ~ないか』となんとなく目をつぶってしまえる・・・・ドラマも終盤にさしかかり、主人公の正当性のお膳立てがきっちり整った万全の状態になっています。
普通だったらこのまま復讐劇を開始させてなんら問題はないはずです。ところがこのドラマのすごいところは、主人公をただの「良い人」に終わらせないところです。人間が誰しも抱える『闇』の部分。正義感溢れる爽やかな人物であった源義家が悪役の顔を見せるようになったように、主人公清衡もまた『闇』を抱く人物であった・・・・・今回はそんな品行方正な清衡が初めて見せた『黒い葛藤』に注目して頂きたい第18話です。
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
第18話 -兄と弟-
内裏より奥六郡を兄弟2人で分割統治せよ、と命じられて早や3年。清衡(村上弘明)も家衡(豊川悦司)も各々の領地をつつがなく治め、奥六郡は穏やかな日々が続いています。ある日、清衡(村上弘明)は陸奥国司源義家(佐藤浩市)に呼ばれ、胆沢城に出向きます。一通り世間話をしたあと、義家は「最近家衡はどうよ?」と切り出したのです。表面上は兄弟の分割統治で落ち着いている奥六郡ですが、家衡側は未だに清衡に有利な統治条件に不満を抱いていました。事あるごとに難癖を付け、国府に訴え出ていたのです。義家も度重なる家衡のクレームに嫌気がさしているようで「どうだろう?家衡を清衡殿の館で預かっては?」と提案します。このまま家衡を野放しにしておくといつまた内乱となるかわかりません。それならばいっそ兄弟で同居すれば腹を割って話も出来るかもしれないし、監視も出来ます。とはいうもののこれはちょっと無茶苦茶なお話です。一澤帆布の兄弟を同居させるようなものです(←わかるかなこのネタ
)清衡が困惑する理由はそれだけではありません。実は清衡には既に厄介な御仁を抱えていたのです。それは義兄である先だっての内紛で憤死した清原真衡(萩原流行)の夫婦養子、清原成衡(米山望文)とその妻岐己(高橋かおり)です。前回、義家に「客人としてもうしばらく預かってくれ」と言われたっきり、そのまま2人は清衡の館に留め置かれたままになっていました。その間、成衡は疱瘡をわずらい、そのせいで顔にもあばたが残り、すっかり自暴自棄になって誰彼かまわず当り散らすようになってしまいました。清衡はじめ館の者皆、この成衡の処置には頭を痛めており、そこに更に家衡が投入されるとなると館は「バルカンの火薬庫」よろしくたちまち大戦勃発となる危険性大です。というか義家お前早く妹夫婦引き取れよ!もうしばらくってどんだけ世話させるねん?
どんだけ清衡に精神的苦痛を与えれば済む訳?何?そういうのが好きなの?Sなの?やめてよそういうプレイは専門店でやって頂戴![]()
義家のSっ気攻撃に内心ウンザリしてるであろう清衡ですが、結局国司の命なので拒否ることは出来ません。館に帰ってみると案の定、成衡は酒に酔って暴れていました。奥さんの貴梨(坂本冬美)はいっつもにこやかでとっても人の良い出来た人なんですが、さすがに家衡との同居には難色を示しました。どうにかならないんでしょうか・・・・と言いますがどうにもなりません。女王様(義家)の言う事は絶・対
なんです。「こうなっては家衡の恨みも憎しみも受けてたつほかなかろう・・・」清衡も覚悟を決めるほかありませんでした。誰かホントに清衡を助けてあげてください![]()
数日後、紫波から母親の結有(古手川裕子)がやってきました。結有は今回の家衡の処遇を不憫がり、一緒についてってしまったのです。家衡の身柄が清衡に預けられることを知って、事情を聞きに来たというところでしょうか。
着いて早々、「どういうことなの?」と食ってかかる母親に対し、清衡は義家の真の狙いを指摘します。家衡が清衡に預けられることになれば、必ず家衡を支持する出羽の清原武衡(渋谷天外)や吉彦秀武(蟹江敬三)が挙兵するはずであり、義家はそれを契機に一気に出羽を平定させようと目論んでいるのです。家衡の更迭はその布石です。さて、こうなると否が応でも家衡vs清衡のバトルとなるのは目に見えて予想される事で、清衡としても今日こそは母に覚悟を決めさせねばならないと逆に結有に食ってかかります。
「手前がこれまで清原一族の中でないがしろにされながらも、耐えに耐えてきたのは、ひとえに清原を滅ぼすためでございます。母上とて十分それは承知のはず、いや、母上こそが手前に清原を滅ぼせと・・・。安倍の仇、父経清の無念を晴らせと涙ながらに仰せられた。もしお忘れならば思い出してさしあげまする!」
「よい!言わずともよい・・・・・。」清衡の追求を遮り、先程の威勢の良さは影を潜め、みるみる内に崩れ落ちていく結有の姿に「母上はまだお覚悟が出来ぬと見える・・・・。」と自嘲ぎみに呟く清衡。ならばお前は覚悟が出来ているの?妻子を犠牲にすることになっても耐えられると言うの?と詰め寄る結有に、清衡は答えます。
「清原を滅ぼすことが出来るのなら、父上の無念を晴らすことが出来るのならばそれでもかまわない・・・・・!!」
ここに来て清衡の言動に今までの優等生然としたものとは違う、執念が成せる凄味を感じるようになりました。対して結有はまだ気持ちが揺れているようです。「もう覚悟決めろよ!」なんて声が聞えてきそうですが、ここまで来ても迷っているのは、それだけ彼女にとってこの決断が耐えがたいことであることがわかります。私は十分に同情できました。それだけ辛いことをすぐ決断してしまう方がどうかしてると思います。長いスパンで人物の感情の揺れ動きを表現できるのが大河の素晴らしいとこなのですから、これだけ引っ張るって事に対してその思いの深さを視聴者は読み取らんとイカンですよ。こういうとこを「いつまでも引っ張っててウザい」なんて学のないこと言っちゃう人がいるから最近の大河は1話完結型になっちゃうんですよね。
ちょいと脱線しました。そんなこんなで結局結有の決意は固まらず、「私が騒ぎが起こらぬよう、監視しますから」と言って紫波に帰っていき、入れ替わるように家衡がついに清衡の元にやってまいりました。のっけからバズーカ砲でも撃ち出すかと思いきや、家衡は「しばらく厄介になります」と折り目正しく挨拶し、冗談なんかも言ったりしてえらく低姿勢です。同居を危ぶんでいた奥様の貴梨も元来根がとっても良い人なので、それを見て安心したのか「今日はご馳走にしましょう!」なんて言ってにこやかにもてなします。更に先に清衡家に厄介になっている成衡も家衡を「家衡殿ならなんでも腹を割って話せるぞ」とえらく気に入ってくれたようで、同居生活も出だしはまずまず順調な気配。しかし巷ではキレたナイフと言われている(あ、それは出川哲っちゃんのことか
)家衡です。このままずっと仲良しこよしで同居できるもんでしょうか?観ている方も超不安
です。
不安は的中です。それから半年後のある日の夜、家衡はすっかり仲良くなった成衡に「清衡やっちまおうと思うんだけど協力して」と打ち明けます。江刺では稲の収穫がそろそろ終わりを迎え、あとは年貢を胆沢に運ぶだけとなります。その胆沢に向う荷駄の列をを家衡の家臣の千任(織本順吉)が襲撃するというのです。急を聞きつけた清衡は手勢を引き連れて救援に向うはず。そうなると館は空っぽ。家衡は病気と偽って館に残り、清衡が救援に向った隙に紫波に残した兵を館に入れ、占領すれば清衡は帰る場所を失います。更に館に残る清衡の妻子を人質にとれば清衡は必ず妻子を助けに来るはず。そこを討ち取ろうという策です。妻子を人質に取る役目を頼まれた成衡は流石に事の重大さに慄きますが、協力することをOKします。「今度こそ完膚なきまでに叩き潰してやる!」と息巻く家衡。しかし、この策謀は折りしも清衡の侍女の柾(洞口依子)によって偶然にも聞きつけられていました。柾は慌ててこのことを清衡告げます。「そうか・・・・胆沢に運ぶ荷駄を襲うとは・・・考えたものじゃな・・・・・・。」清衡は家衡が必ず事を起こすであろうと踏んでいたようです。意外と冷静に話を聞く姿を見ると、もうなんだか兄弟の絆なんてのはこの2人には存在しないんじゃないかと思ってしまいます。
家衡の陰謀が露見して数日後、ある日家衡は清衡を誘って囲碁に興じます。碁盤を挟んで久しぶりに対面する兄弟。「お前の(囲碁の)手は昔と違って邪道になったな」と清衡。「兄者こそ読みづらい。この石は何のための石でござろう・・・兄者と同じく複雑怪奇・・・・.」と互いに腹の内を探るような台詞のかけ合いに観てるこっちはハラハラです
それからふと家衡は昔、川で溺れた時に兄者に助けられた事があった・・・と思い出話をしはじめました。自分が死ぬかもしれないというときに兄者の腕が自分を捕まえてくれた・・・力強い腕と自分を背負う大きな背中が、幼心になんと頼り甲斐のある兄なのだと思った・・・・としみじみ語るうちに感傷的になったのか急に碁盤をぐちゃぐちゃにして泣き出してしまったのです。それを見て清衡も良心の呵責を感じたのか、悲しいとも苦しいともつかない顔で家衡を見つめます。しばしの沈黙の後、ぐちゃぐちゃになった碁盤を指差し「俺の方が勝ってたのに・・・」「いや、手前の方が勝っていました」と冗談を言い合い、どちらからともなく笑い出してしまいました。お互いまだ肉親への情愛が1ミクロだけでも残っていたのね・・・このシーンはなんだかグッと来てしまいました![]()
さて、兄弟が笑いあっているところに母の結有が訪ねてきました。兄弟が仲良くしている姿に嬉しそうに目を細める結有を、清衡は「母上、ちょっと・・・」と言って彼女を連れて席を立って行ってしまいました。1人残された家衡。兄と母の後姿をしばらく目で追った後、ゆっくり庭を振り返ります。そして完全にカメラ目線になったところで一言放ちます。
「ぶっ殺す!!!」
うえぇぇぇぇぇぇぇ?さっき碁盤グッチャにして泣いたのはなんだったのぉ?あれ嘘泣きってこと??もう何なの!さっき私がグッとなったあの「グッと」を返してぇ!
別室に案内された結有はそこで清衡から家衡の恐るべき陰謀を知らされます。家衡がそこまでするとは結有も思わなかったのか絶句してしまいます。「お前はどうするつもりなの?」と聞く結有に「手前は絶対に殺されません。母上に手前の覚悟を見せてごらんにいれまする」と強く宣言します。結有はまだ戸惑っています。血の繋がった兄弟なのです。兄弟で殺しあうの?さっきあんなに楽しそうにしてたじゃない?ここまで来ても尚もまだ争いを止めようとする結有に向かい、清衡はその望みを打ち砕く衝撃的な発言をします。
家衡は先ほど川で溺れた自分を清衡が助けたと言っていたが、事実は違う。本当は溺れた家衡をしばらく助けずに放っておいた、人が来たから助けたのだと。家衡が溺れているのを見て「死ねばいい」と思っていた、と。自分はそういう男なのだ、それを教えてくれたのは母上です。
あんまりにも強烈な清衡ダークサイド発言に結有だけでなく、観てる私もひきつけを起こしてしまいそうです。「お前は・・・・鬼じゃ」実の母からの酷い言われ様にも清衡はもう動揺する事はありません。
「やってやる・・・家衡ともども、清原一族を必ず滅ぼしてやる!」
長い間、胸の奥の奥でくすぶり続けた復讐の炎が今、確かな火種となって清衡の内を赤く強く燃え滾らせていました。
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
最後の10分くらいの清衡と家衡、結有のやりとりはもうシェイクスピア悲劇並みのすさまじいシーンで正直私はTVの前で悲鳴をあげておりました。ここまで主人公に毒を吐かせたドラマってあんまり無いよなぁ・・・・いやぁスゴイ!ただただ脱帽です。第2部は笑いもほんわかするシーンもほぼ皆無で、もう底なしに暗い!ここまでダークだと逆にこの暗さが病み付きになっちゃうくらいですね、てか私はもうかなり病み付きです![]()
古今東西様々な兄弟の確執があり、大河でも有名どこでは『独眼竜政宗』の政宗と小次郎、『太平記』の尊氏と直義なんかがありますが、2つともやむにやまれぬ事情があって起こっただけで、兄弟間の仲はそれほど悪く描かれていませんでした(それが逆に悲劇性を増していたのですが・・・・)。でも清衡と家衡の仲って最初からもう破綻しているんですね。結局「清原一族として」とか「結有が産んだ子」とか条件付きだったからこそなんとか繋がっていた兄弟だったんだなぁとドラマ見ていて思いました。そこに「利害」がからんだらアッというまに壊れてしまう、それくらい薄っす~い仲だったんですね。「ただ単に血が繋がっているだけ」ていうことがこれほど空しい事だとは思わなかった・・・・・
育った環境が環境だからこうなってしまうのはしょうがないことだけど、あんまり希望が無さ過ぎてやりきれないですね
改めて清衡の背負った業の深さを思い知らされて涙が出てきてしまいます。こんな人生耐えられないぜ![]()
第2部は私が村上ファンということもあってか、第1部よりもレビューが細かく、長くなってきちゃって読むのも皆さん大変だと思います。ごめんなさい
私も書くの大変で困ってます
ただこのドラマへの『愛』だけはやたら詰めこんでいるので、それに関しては直江兼続に負けてないです(笑)
| 固定リンク | コメント (1) | トラックバック (0)







最近のコメント